神前式や和婚といえば、白無垢をイメージする方が多いですよね。着物の歴史を紐解いていくと、白無垢に限らず時代によって婚礼衣裳の主流は変化しています。時代背景を踏まえつつ、婚礼用の和装にはどんなものがあるか深堀りしていきましょう。
本記事では白無垢や色打掛、黒引き振袖など日本古来の和装について詳しくご紹介します。色や柄によっても意味合いが異なるので、どんな思いを込めて衣裳を選べばよいか参考にしてください。また、日本髪や和装向きのヘアアレンジ、ヘア小物なども併せて考えると、衣裳を選びやすいでしょう。
伝統的な和装は古くからの習わしがありますが、現代的なアレンジや新素材の和装など今時の新郎新婦様にも合う最新情報もチェックしてみてください。
和装の婚礼衣裳には何がある?
結婚式で着ることができる衣裳は白無垢に限らず、色打掛や黒引き振袖などがあるのをご存知ですか。まずは日本の伝統的な婚礼衣裳には、どんな種類があるかみていきましょう。
●白無垢
和装の中で最も格式の高い婚礼衣裳が白無垢です。白無垢は帯を締めた着物の上に羽織る白い打掛のことで、掛下や帯、小物に至るまで全て白で統一し、その名の通り清らかで無垢な心を表します。鎌倉・室町時代の公家や武家など身分の高い人の結婚の儀式で着用する衣裳として始まりました。
現代ではつけ襟にレースをあしらったり、小物にカラーを取り入れたりとファッショナブルな着こなしをする新婦様もいます。
●色打掛
色打掛は歴史的にみると白無垢の次に着替える衣裳でしたが、現代は白無垢と同格として扱われ、挙式や披露宴でも着用できます。白い打掛以外の色や柄がついたもので、金の糸で刺繍がほどこされていたり染めや織りで華やかな柄があり、お祝いの装いとしてぴったりです。
色や柄によって全く雰囲気が変わるので、顔立ちや好みに合わせて選ぶことができます。
●黒引き振袖
正式な婚礼用の衣裳で、身丈よりも長い裾を引いて着るのが特徴的な黒引き振袖。江戸末期から昭和前期にかけては白無垢よりも黒引き振袖が婚礼衣裳として主流になっていました。
引き締まった印象で、打掛に比べて軽く動きやすいです。色打掛と違い、帯を見せることができるので、着物と帯のコーディネートも考えましょう。
色打掛はこんな衣裳
現代では、挙式で色打掛を着る新婦様も増えています。神前式など和の結婚式では建物自体が落ち着いた佇まいのため、色鮮やかな色打掛がとっても映えますよ。また、洋髪との相性もよく、着物の中で描かれている花を髪飾りとして飾るといった古典的なヘアスタイル以外のコーディネートもしやすいのが特徴です。
●色に込められた意味
色に込められた思いを知ることで、新婦様の気持ちをさりげなく表現できます。色打掛が生まれた背景から、赤や黒の色打掛が多く仕立てられています。
▼赤
赤は太陽を連想させ、日のめぐる様子から生まれ変わりの意味合いがあります。昼間の白、夕焼けの赤、夜の黒は格式の高い色として古くから重要な儀式の衣裳に用いられてきました。また赤は血液の色でもあり、生命力を感じさせ、魔除けの意味合いが込められています。
▼黒
黒は武家社会で権威や威厳を表現する目的で衣服に使用されるようになり、格の高い色として婚礼服にも使用されています。新婦様の強い意志を表し、「嫁ぎ先以外の色には染まりません」という意味合いを持ちます。
▼金
高貴さや神聖さを表す金色。稲穂の黄金色をイメージさせ豊穣の意味合いも持っています。きらびやかで高級感があり、婚礼の衣裳には金糸の刺繍がほどこされることが多いでしょう。
▼白
神様の服装なども白で表されることが多く、神聖な色とされています。清廉潔白を意味する色で、「嫁ぎ先に染まります」という新婦様の心を表現しています。
●柄に込められた意味
日本では古くから災難や厄を払い、幸せを運んできてくれる物を視覚的に表した「吉祥文様」があります。その中でも特に長寿、夫婦円満、子孫繁栄などの意味合いが強いものが婚礼衣装に多く用いられています。
▼鶴
「鶴は千年、亀は万年」ということわざになるほど、鶴は長寿の象徴になっています。実際に20年~30年ほどの寿命で、鳥類の中では長生きします。また夫婦仲がよく一生添い遂げることから夫婦円満の意味合いがあります。
▼鳳凰
鳳凰は平和な世に姿を現すといわれる伝説の鳥で、平和を象徴します。「鳳」は雄、「凰」は雌のことで雌雄一対で描かれることが多く、夫婦の調和という意味もあります。
▼亀(亀甲紋)
亀の甲羅は固くて丈夫で身を守ることから、健康と長寿の象徴とされます。亀甲文様は六角形の安定的な模様の連続であり、永遠の繁栄という願いも込められています。
▼流水
水は生き物が生きていく上でかけがえのない大切なものであり、清らかさや生命力を感じさせます。水が流れる様子を線で表現した模様で、他の模様と組み合わせて装飾に用いられることが多いでしょう。悪いことは水に流す、円滑に流れていくという意味合いがあります。
▼松竹梅
松や竹は厳しい寒さの冬でも葉の緑の色があせることなく、多くの木々の葉が散る中で青々とした生命力を感じさせます。また、梅は寒さの残る春の始まりに花を咲かせることから、春の息吹を感じ、縁起が良いとされています。
●色打掛の選び方
色打掛は色や柄によって雰囲気が大きく変わるので、色に込められた意味合いを考えたり、自分の肌の色に合うかどうか試着したりして衣裳を選ぶと良いでしょう。
背が高い新婦様は吉祥文様や花などが大きく描かれた柄のデザインが似合いやすく、柔らかい雰囲気の新婦様は色味が淡く小ぶりな柄が似合いやすいなど、新婦様の身長や雰囲気によってもしっくりくるデザインは変わってきます。
衣裳による小物について
綿帽子や角隠しなど和装に合わせる衣裳小物についても、伝統的な習わしがあり、それによってヘアスタイルやアレンジも変わってきます。習わしによって制限のあるスタイルもあるので、衣裳とともに小物やヘアスタイルも一緒に考えましょう。
●綿帽子
綿帽子は白無垢で挙式をする時だけかぶるものです。挙式終了まで嫁ぐ相手以外には顔を見せないようにする意味合いが含まれているので、挙式後や他の和装の際には着用しません。
伝統的には文金高島田のかつらの上に固定してかぶせるものですが、最近では洋髪や地毛で結い上げる新日本髪に合わせて着用する新婦様もいらっしゃいます。洋髪の場合には、綿帽子が立体的になるように綿帽子キーパーで高さを出してから着用します。
●角隠し
角隠しは文金高島田の日本髪をぐるっと一周覆うように巻く白い布のことです。角を隠して夫に従うという意味合いが込められていて、夫よりも一歩引いておしとやかな妻になる思いを表しています。
色打掛や引き振袖など白無垢以外の婚礼衣裳とも合わせることができ、挙式や披露宴で着用します。着用場面は広いですが、ヘアスタイルは文金高島田か新日本髪に限られますので注意しましょう。
文金高島田だけじゃない! おすすめヘアスタイル
和装を選んだ時には、髪型も悩むところですよね。またお色直し後の衣裳も考えた上で、和装の髪型を決めるとお色直しがスムーズに行えるでしょう。
●洋髪
洋髪にする場合も、着物は襟元やうなじが綺麗に見えるアップスタイルにするとスッキリ見えますよ。低い位置でのシニヨンにするのも可愛らしいですね。和装の後にドレスへのお色直しをお考えの新婦様におすすめです。
洋髪で綿帽子をかぶる場合には、綿帽子キーパーという専用の器具が必要になるので美容師さんに相談しましょう。
●文金高島田(かつら、半かつら)
和装スタイルの醍醐味といえば文金高島田と言われる日本髪を結い上げたかつらです。かつらにはすっぽりと頭全体を覆う全かつらと、地毛を生かした半かつらがあります。
全かつらは立体的でボリューム感のある重厚さと落ち着きのある仕上がりになります。半かつらは前髪とサイドの生え際に地毛を生かすため自然で柔らかな仕上がりです。ヘアアレンジは効かないので、お色直しではヘアチェンジせずに小物だけマイナーチェンジしましょう。
●新日本髪
かつらではなく新婦様の地毛で日本髪を結い上げる新しい形です。クラシカルでありながら、自然な仕上がりで、顔立ちに合わせて髷のボリュームを微調整できます。前髪は最低でも15cm以上、サイドは鎖骨よりも長いくらい地毛の長さが必要なので、計画的に髪の毛を伸ばしておきましょう。
色打掛の後は何を着たらいいか
和装のお色直しはどうしたらいいか迷ってしまいますよね。お着替えやヘアチェンジの時間を考えると和装から和装へ着替えることが時間も手間も最もかからずに出来ます。
また一生に一度の機会なので、和装もドレスも両方着たいと思う新婦様もいらっしゃいますよね。そんな時はゲストを出来るだけお待たせしないように、時短テクニックを使いましょう。時短テクニックについてはこちらに関連記事がありますので、参考にしてみて下さい。
URL: https://www.kekkonshikijoerabikata.com/4406/
●色打掛のままマイナーチェンジ
衣裳はそのままに、ヘア小物だけをマイナーチェンジすると短時間でお色直しできます。
他にも、最近では透ける素材で仕立てられたオーガンジーの打掛もあるので、掛下はそのままに打掛だけ羽織り替えると軽やかになり、披露宴の雰囲気にはぴったりです。
●ドレス
和装からドレスに着替えるためには、下着から小物、ヘアメイクまで全てを変える必要があるため少し時間がかかります。ドレスに着替えた上で、メイクやヘアスタイルもいちから全てやり直すのは、ゲストをお待たせしてしまうためあまりオススメしません。
和装では洋髪に綿帽子を合わせ、ドレスへのお色直しでは綿帽子をはずすだけでヘアスタイルが完成できる方法など時短テクを使いながら、素早く着替えることでゲストも楽しめるお色直しになりますよ。
●色打掛の後に白無垢を着ることはできない
お色直しは、室町時代に白無垢で2日間過ごした後に新郎側から贈られた色物の着物に着替えたことに由来し、嫁いだ家の人間になったと生まれ変わりを表現する意味合いがありました。そのため、色打掛を着た後に、白無垢に着替えることはしません。
挙式でも色打掛を着よう!
和装は古来からの習わしやルールがあり、どれにしたらいいか分からないと迷ってしまう新婦様も多いですよね。本記事では、白無垢をはじめ、色打掛や黒引き振袖などの婚礼衣裳やそれに合わせた小物、ヘアスタイルなどをご紹介しました。
さまざまな種類の着物やそのしきたりを把握するのは大変かもしれませんが、だからこそ組み合わせやスタイルも自分らしく表現することが出来ます。現代は多様性を認める社会へと変化しつつあり、和装のとらえ方や着こなしもバリエーションが増えてきました。
挙式は白無垢というイメージにとらわれず、色打掛で華やかにまとめるのも花嫁姿をいっそう引き立ててくれるのでおすすめです。